【12】
美味しんぼ
ウチの親父は自称美食家である
料理が全くできない父
母が不在の場合、冷蔵庫にあるもの全てがおかずの対象になる
ご飯にバターのっけて食べてみたり
ご飯にジャムのっけて食べてみたり
ご飯に牛乳ぶっかけてお茶漬けのように流し込んだり
目を背けたくなるようなものを好んで食べていた
要するにお腹が膨れれば何でもいいのだ
いつだったか中国に行った親戚から「カラスミ」なる食べ物を戴いた
タラコみたいな味がする、という会話を母親と交わしながら食卓を囲んでいた
父 「お前らじゃ、食べても味の違いがわかんねーだろうな」
俺 「ふーん、お父さんは違いがわかるの?」
父 「当り前だ、父さんグルメだから。カラスミとタラコの区別もつかないお前達と一緒にするな」
自慢気に胸を反らす親父
ある休日の昼下がり、オヤジが大きめの箱に入ったスナック菓子を食べながら新聞を読んでいた
少し緑がかったビーダマ大のお菓子
次々と頬張る親父の食べているお菓子が、なんだか美味しそうに私の目に映る
オレ 「ねえ、お菓子ちょっと頂戴」
親父 「駄目だ、お父さんお昼食べてないから、コレがお昼代わりなんだよ」
オレ 「いいじゃん少しだけ食べさせてよ」
親父 「全部食うなよ、オレ腹減ってんだから」
オレ 「うん!」
菓子箱を受け取り、ひとつ取り出し眺めてみる
毒々しい真緑。身体に害が及びそうな色合いだ
臭いを嗅いでみる。 クンクン
おや?
どこかで嗅いだことのある匂いだが、うまく思い出せない
つい最近も同じ匂いを嗅いだことがあるんだけどなぁ…なんだっけ?
何気なく箱のパッケージを眺める
魚の写真が使われてます
このお菓子の主原料は魚類なんでしょうか?
…
あっ!?
思い出しました。さっき嗅いだ、お菓子の匂い
教室で飼ってる金魚のエサの匂いと同じでした
もう一度パッケージに目を向けます
デカデカと錦鯉が二匹泳いでます
…お菓子じゃない。絶対おかしじゃないよ!
オレ 「お父さん、これ鯉のエサだよ」
親父 「えっうそ!?ち、ちょっと貸せ」
そういうと私の手から箱を取上げ、マジマジとパッケージの鯉を見つめています
親父 「…どおりでオカシな味だと思った」
オレ 「オカシイのは味じゃなくて、アンタの舌だろ?」
反論できず、親父のクチがパクパクしてたのは、鯉のエサのせいだけじゃないなと、幼な心に思いました
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